人工知能の未来における労働と評価の考察

人工知能(AI)について、メタップスCEOの佐藤航陽氏の見解がなかなか面白かったのでシェアします。人工知能に関する記事は多く見ますが、それによる資本主義の変革にまで踏み込んで考察されている内容のものはまだ少ないですね。

人工知能は、資本主義以外の経済を発想できるか? ハフィントンポスト

 

 

■人類が労働から引き離される時代がやってくる

この記事(2014年の終わりに未来の話をしよう – シンギュラリティ後の世界)でも書いたように、今後人工知能は飛躍的に発展し、30年後に人間の知能を抜いてしまうといわれています。そうなれば今まで人間がやっていた労働のほとんどが機械(ロボット)によって代行され、人が働く必要がない、もしくは働く場所がない世界が到来すると予測されています。

よって、ほとんどの人が労働によって生活を成り立たせている現在の資本主義システムは、どこかで方向転換せざるを得なくなるはずです。仕事はどんどん少なくなりますが、あらゆることを機械がやってくれるので、日常生活のコストは限りなく無料に近くなり、食べていくための必要最低限のお金は、ベーシックインカム(最低限所得保障)という配当システムでカバーする、というのが現時点で考えられる最も現実的なソリューションではないかといわれています。

まあどうなるにせよ、働くのは一部の人のみで、ほとんど人は労働せずに生きていくような未来は、そう遠くない将来にやってくるようです。

 

■人間は「評価」が必要な生き物

さて、働かなくていい世界がやってくるとしたら、そこはユートピアでしょうか?ディストピアでしょうか?

ここに労働の機械化が起こった時の、お金以外のもう一つの問題が浮上します。それは「自分の価値」をどのように形成するか、という問題です。

人間は社会的な生き物ですから、お金や食べ物の他に、「評価」が必要になります。評価とはすなわち自分の価値であり、自己肯定の源です。人間は評価なしに生きていくことはできません。

現代人の多くは、自分の評価形成を労働に頼っています。お金を稼ぐことと評価は密接に関わり合っており、不景気による自殺者の急増は、収入と評価形成の場を、会社に依存している人が多いのが原因なのではないかと思います。倒産やリストラなどで会社から離れたとたん、収入とともに評価を得る場所がなくなってしまうからです。この国ではお金がなくても福祉を頼れば生きていけますが、評価の枯渇はどうしようもありません。評価がなくなってしまうことは、社会的な生き物である人間にとっては致命的です。

働いていないと評価が得られない、言い換えれば「働いていない人=価値のない人」という現在の価値観では、労働の機械化が起これば、限りなくディストピアに近い状態になってしまうでしょう。そして最近の社会の息苦しさを見るにつけ、それはすでに起こり始めているのではないかと思わざるを得ません。

逆にいえば、現在の資本主義社会は、労働に従事さえしていれば、給料とともに「評価」ももらうことができる便利な社会、と考えることもできるでしょう。まさに資本主義の効率性ですね。生まれてから資本主義にどっぷり浸かって生きてきた僕らには当たり前の話ですが、今後の機械化で、そのシステムは大きく変わろうとしています。

 

■人類みなクリエイター時代

働かずに生きていける世界は、一見夢のような世界ですが、実際に来るとなると話は別です。今現在、労働によってのみ評価を得ている人は、新たな評価の源泉を考えておかねばならないでしょう。その中で「自分の価値とは何か?自分は何のために生まれてきたのか?」という哲学的な問いに対して、自分で落としどころを見つけるという難しい作業が発生するはずです。そして思考とともに行動も要する作業でもあります。

その一方、アーティストや職人のような、自分で物作りをしている人にとっては、ユートピア的な側面の多い世界のように思います。お金を気にすることなく好きな絵を描いたり、音楽を作ったりできる世界は夢のようです。つまり最初から自分のやりたいことがわかっている人間は、自分の評価を自給自足することができますから、機会化された社会とは相性がいいような気がします。

「価値」とは「何を生み出すか」が重要な鍵になると思います。現在は労働という形でテンプレート化されてますので、そこに自らをフィットさせればよかったですが、いずれそれがなくなれば、全部自分でするしかなくなります。誰からも頼まれないものを、己の力で生み出す、まさにクリエイターです。30年後は人類皆クリエイターな時代が来ているかもしれません。

とはいえ、それこそが人間の本当の姿なのではないか、と思ったりもします。今は「食うため」に自分を押し殺して生活している人がほとんどですから、それがなくなれば、「やりたいことをやる」という各人が本来持っている特性を活かしながら生きていけるようになるのかもしれません。そうしたら社会にどんな化学変化がもたらされるのか、楽しみであったりもするわけです。人工知能による機械化が社会に与える影響については、ポジティブなものからネガティブなものまで、様々な見方や議論がありますが、僕はけっこう楽観的です。

この話は、現時点では夢想的であり、妄想の域を出ていませんが、今後の30年は、今までの30年では想像もつかない程の大きな変化が起こってゆくはずです。そんな大きなスパンで物事を見て、柔軟に変化を受け入れていく準備が必要だと思います。僕らは全く別のシステムで成り立っている、2つの世界を生きる運命なのかもしれません。それを大変だと思うか、面白いと思うかは人それぞれでしょうが、僕は後者のほうでありたいですね。

 

人工知能と、それに伴う社会変化について知りたい際は下記2冊がおすすめです。

NEXT WORLD―未来を生きるためのハンドブック

シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき

 

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