冬ごもりのススメ – 修道士と現代人の狭間論

晩秋から冬が始まりつつある12月初旬、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

寒さがめっぽう苦手な僕は、冬は一人で静かに過ごすことにしています。いわば冬ごもりですね。

こもるといえば、最近すごいドキュメンタリー映画の存在を知りました。「大いなる沈黙へ」という映画で、グランド・シャルトルーズというフランスの山奥にある修道院の日々の営みを、一切のナレーションや音楽、照明を使わずに、現地の映像と音のみで記録したドキュメンタリーです。

ここに暮らすカトリックの修道士たちに会話が許されるのは日曜日のみで、それ以外の日は誰とも話さず、自然の静寂の中で、神への祈りとともに清貧の生活を送っているのですね。仏教でも洞窟の中で座禅を組むだけの修行僧とかがいましたから、神の世界に対峙しようとすると、似たような落とし所に向かうのかなと思わなくもありません。

この映像を見て、皆さんはどう感じるでしょうか。ある著名人の方は理解不能といった見解を示していましたし、多くの人も自分とは関係のない世界だと思っているのかもしれません。ただ僕には正直他人事には思えないんですよね。

宗教とは何かを端的にいえば、自然の擬人化です。昔は当然今より自然が身近でしたから、自然から多くの恵みをもらうこともあれば、逆に自然に殺されることも頻繁にあったわけです。その「よくわからない、すでにあるもの」を人間の中で納得できるように、自然を擬人化したのが神であり、そこから神話が生まれ、宗教になっていきました。

なので、グランド・シャルトルーズの修道士たちは、日曜日以外誰ともコミュニケーションをしていないかといえばそうではなく、自然を通して神と対話をしてるんでしょうね。これは何も特別なことではなく、僕らだって雲から差し込む一筋に光に、自然の意志的なものを感じますし、地平線から登ってくる朝日に手を合わせたくなる気持ちは万国共通です。

それに対し、僕らが日々向かい合っている「社会」は何かといえば、情報の塊です。情報とは人間が理解できる、人間が作り出したもの、自然という「すでにある」以外のものと解釈するとわかりやすいと思います。現代人は情報の中で日々を営み、今日の仕事も、明日の自分も、情報の処理の過程に存在しています。日本人に限らず、世界の都市に暮らす人は、無宗教だという人が多いですが、神がいなければ、向かう先は人間社会、すなわち情報の塊しかありません。ゆえに都市に暮らす人は、ネットをやろうがやるまいが完全に情報過多であり、そこから抜け出す術を持っていません。

本来人間というのは、その情報たる人間社会と、自然の擬人化である神との間でバランスをとって生きてきたはずです。なのでグランド・シャルトルーズの修道士たちの生活が極端ならば、僕ら現代人だって、相当極端のような気がするのですよ。産業革命以来、情報側で生きることを是とし、情報の中のみで日々を生き、明日どころか10年後の自分すらも、時間軸に照らして情報として処理しようとしてますから、それってずっと蛍光灯の下で生きているようなものじゃないですか。ストレスで死ぬ人が出るのも必然だと思いますわ。

そんな中出てきたのが、「ヨガ」とか「マインドフルネス」といった仏教などの思想や瞑想を取り入れた健康法です。ビジネスの最前線にいる方々がこぞって、情報や時間軸から一定期間抜け出し、静寂の中瞑想にふけったりしています。それが最近の「イケてる健康法」らしいのです。

さあ、そうなると、それはグランド・シャルトルーズの修道士の方々と何が違うの?という話になってきますね。神を否定し、情報にコミットした結果、やっぱり神側の世界にすがらざるを得ない状況に、現代のアンバランスさが見えるような気がします。僕らもたまにはグランド・シャルトルーズ修道院みたいな時間は絶対必要で、情報と自然の両極を横断するようにコミュニケーションしなきゃいけないんですよ。社会に生きる一個人としての自分と、自然に生きる一生命体としての自分、両面から見なければ自分なんてわかりませんからね。

ということで、情報世界に翻弄され、自分の価値や立ち位置すら確定できず、不安に震えている迷える子羊の現代人の皆さん、たまにはグランド・シャルトルーズ修道院に入ったような気持ちで、誰とも話さず、何も考えず、時間も忘れ、ただただ自然という大いなるものと、自己との関係性に向き合う時間を作るのはいかがでしょう。考えることをやめると、何かがわかり、見ることをやめると、何かが見えます。それは宗教的な話ではなく、脳科学の話です。

僕にとっては冬はそういう時間だと解釈しているので、今年も一生懸命引きこもる所存です。今月に入り10度を下回る日が増え、修道院の鐘の音が聞こえてきました。

それでは皆さん、神のご加護を。アーメン。

引きこもって食べるピスタチオは最高ですよ。
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