いい写真はどうすれば撮れるのか -書評という名の思い出話

あれは確か中三の修学旅行の時だったと思う。

当時は90年代前半、まだデジカメはなく、フィルムカメラの時代で、富士フィルムの「写ルンです」に代表されるインスタントカメラが行楽のお供だった。

若い人はもう知らないだろうし、僕と同年代くらいの人には、フィルムを手動でまわすジーコジーコという音はノスタルジーの象徴だろう。

僕も例に漏れずインスタントカメラを持っていって、旅行先の京都や奈良の景色を熱心に撮っていたわけだが、枚数に制限があるし、どんなに美しい景色をこだわりの構図で撮っても、写りはそれなりであった。

そんな中一人だけ、ちゃんとしたカメラを持ってきた友達がいた。同じクラスだった中西だ。彼に使い方を教えてもらいつつ1枚撮らせてもらったが、インスタントカメラとは比べ物にならない使いやすさに、ズームもオートフォーカスもでき、ファインダー越しに見える景色は格別だった。誰もがカメラを気軽に持てる現在とは違い、当時カメラは高価で触る機会もなかったので、とても感動したし、いつか自分もカメラがほしいと強く思ったことを覚えている。

それから20年の時がたち、久々に再会した中西はプロのカメラマンになっていた。中学を卒業してから、彼がカメラで活躍していることをたまに聞いていて、会いたいと思っていたので、関係を繋いでくれたfacebookには感謝している。

そしてその時一緒にご飯を食べたのが、同じく中学以来久々に会った編集の仕事をしている傳だ。その時は3人で普通にいろんな話をして終わったのだが、その後カメラマン中西と編集者傳が組んで、「いい写真はどうすれば撮れるのか?」という本が出版されることとなった。縁とは面白いものだ。

「いい写真」はどうすれば撮れるのか? ~プロが機材やテクニック以前に考えること

この本はさすが力のある二人(お世辞ではない)が作っただけあって、写真本としては異例のロングセラーとなり、翻訳され海外でも売られているらしい。発売して数年たった今も書店の写真コーナーに平積みされているのをたまに見かける。

もちろん僕も発売後すぐに本を買ったのだが、僕の場合何なら中三の時のように中西から直接教えてもらえるという友人特権もあって、長い間読まずにいたが、この間ふとページを開いてみたら、かなり面白くてそのまま全部読んでしまった。

スマホのカメラが高性能になり、誰もが苦労せずにそれなりの写真が撮れてしまうこの時代において、改めて「いい写真とは何か」を様々な側面から平易な文章で説明されており、カメラマン中西の写真に対する真摯さと、編集者傳の編集力に友人ながら尊敬してしまった。何より「いい写真」を理論的に理解できたのはよかったし、読みながらあの修学旅行の時の一件を思い出して、なかなか感慨深いものがあった。

先日、その中西がフリーランスとして活動する旨の知らせがきた。彼の新たな門出を祝福しつつ、引き続き頑張ってほしいし、何かの機会に一緒に何かを作れればと思う次第である。

 

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